不慮の出来事
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1stショー。
薄暗いライトの中でいつもどおりにショー始まった。
一瞬パンフレットを見直して、German Wheelじゃないんだと確認するお客さんにも慣れてきた。
始まって少しすれば、みんなこっちに注目してくれる。
ちらほら拍手も起こり始め、ショーの始まりを感じる。
あるシーン。
1列からなる集団を迎え入れる振付がある。
集団の先頭はnasa、彼との関係性は未だにフワッとしているが睨むように集団を迎え入れる。
その瞬間、手元に違和感を感じ瞬時に自らの異常に気付いた。
「縄が切れた」
起きてはならない緊急事態。
だがしかし起きてしまった現実。
焦りと動揺を一気に抑え込み、大声で叫ぶ。
「切れた!!!!!!」
後に確認するとその声は聞こえなかったらしいが、一目散にバックステージに走る姿を見て状況を把握したらしい。
曲は流れ続ける。
すなわち、ショーは止まることなく進んでいる証拠だ。
背後に様々な感情を持ちながら走る。
切れてしまった縄はバックステージに投げ捨て、とにかくショーの流れを作る事に必死だ。
多くの人が行きかう中、ただ1本の予備ロープを目掛けて走る。
ロープに触れたと時を同じくして、ドラムのベース音が響く。
ジャンプラインが始まった音だ。
無我夢中でステージにかけ戻り、フト目線を上げるとnasaが跳ばせている。
ここ最近ろくに練習もできていなかったにも関わらず、状況を打破すべく最善の判断をしてくれた。
大きな音に合わせて全体が止まる。
このタイミングに合わせて身体を所定の位置まで持っていく、それだけで自分には精いっぱいだった。
首からは手にあまり馴染まないロープをかけて。。。
交換時期は3か月と決めていた。
それは劣化と安全性の対策のためだ。
練習を重ね、ショーでの使用を重ねれば縄も劣化する。
結果として最悪の場合は縄が切断されてしまう。
いつ起こるかは誰にもわからない。
今までの経験則上、3か月に1度でも多すぎるほどだと思っていた。
加えて使用しているのは中央に繊維の通っている特殊な縄。
仮にビニール部分に亀裂があったとしても簡単には切断されない。
ここにある種の油断があったというのは結果論だろう。
何しろダーク開け、1か月足らずで今の縄は切れてしまったのだから。
未然に防げればそれに越したことはない。
日々のチェックだけでは完璧に遂行しえない縄の状態確認。
僅か数分の間に起きてしまった非常事態。
右腕に縄を巻きつけながら幕に戻ってきた。
戻ると同時にバクステージマネージャーに確認をする。
お客様は大丈夫だったのかと。。
縄が切断してしまい、一部がどこかに紛失してしまった。
ショーの間に探す事など出来ないが、ある一部分のお客様がショーの途中に席を立った。
タイミングもおかしい、何よりスタッフが何人かで対応している。
ひょっとして切断した縄の一部が客席に・・・悪い予想は尽きない。
心配しなくて良い、大丈夫だと諭されるだけ。
結局最後まで真相は分からなかった。
青ざめながらバックステージを後にする。
アクト全体に迷惑をかけ、更にはお客様にまで。
全責任が自分にあるわけではない。
頭で理解していても、引き裂かれるように心が痛む。