縄のまっちゃん公式ブログ【旧ブログ】

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勇気ある門出を見届けよう


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いつもは気さくな彼も、今日ばかりはナーバスになっていたことだろう。

彼はレコンの1人、普段はキャラクターとしてステージにたっている。元はアクロバット出身で人間タワーの土台をしている力持ちだ。加えてスキューバのインストラクターまでやっているという多才な人物。そんな彼は今日、クラウンとして自らのアクトを内部に公開する日だった。

シアターでたまに練習をしていると、けたたましい破裂音が聞こえることがある。彼が練習をしている合図だ。音の元はムチ。西部劇みたいなムチを振り回し、普段は見せない真剣な顔つきで何かを考えている。

彼はすでにクラウンのバックアップとしてショーに出ている。しかしあくまでそれはバックアップ、彼のオリジナリティは殆どない。正規のクラウンに沿う形でショーに出ているだけだった。このムチを使うアクトを完成させれば、彼のオリジナルとしてステージに立つことができる。

何人かがステージで話し込んでいる。公開する直前の打ち合わせだろうか。そこにはディレクターと正規のクラウンであるバルトも立っている。心配そうな顔をした彼を励ましているようにも見える。逃げ出せるのなら逃げたいのだろう。身内のわずかな人数ではあっても、丹精込めて創ってきたアクトを評価される。彼だけの中にしまっておくことは、もうできない。

ディレクターの掛け声でシアターが拍手に包まれ、聞き覚えある曲が流れはじめた。

破裂音が響き渡り、効果音が鳴る。

シンとした空間にそれらは淋しくこだまする。

見覚えある顔が、まるで裸一貫でステージに立っているようだ。

滞りなくアクトは進む。

音楽が切り替わり汗だくであろう彼はお辞儀をする。

客席の照明が付き、静かに立ち上がった観客は各々の仕事場へ帰って行った。

お辞儀を待たずして立ち上がりはじめたバルトとディレクター。ステージに駆け寄り声をかける。フランス語で内容は理解できなかったが、彼は肩を落としながら静かに聞いていた。彼にとってアクト初公開は、やや手厳しい結果だったのかもしれない。それでも彼は最後まで演じ切った。破裂音と共に客席が笑いに包まれる日が待ち遠しい。

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