表裏一体の笑顔
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おかえり!と素直に喜ぶことはできない再会だった。
短期契約のアーティストが1人帰ってきた。彼女は先月のOFF前に契約が終了し、帰郷していた。こうして1ヶ月もしないうちに再びシアターで会うとは本人も夢にも思わなかったことだろう。
サーカスゆえに怪我がある。それは不意に誰にも襲うことだ。突発的な緊急事態には誰しもが無力である。あるのは現象と結果としての代償だけ。
どうも聞いた話ではアキレス腱だという。彼女はやっと復帰してアクトにフル出演していた。その回も勢いよく目の前からステージに上がるのを見ていた。何事もなく進むショーの裏で、フィジオとアーティストが騒いでいる。事が起きてしまったのだ。担がれて運ばれて行く彼女は肩で息をしながら、痛みに震えていたという。
歓声を後ろ姿に受けながらみんながフィジオルームに駆けつける。大きな氷袋を足に巻かれた彼女がベットに座っていた。思った以上の彼女の笑顔に一同が胸を撫で下ろした。ここでは細かいことが分からないということで、スグに病院に搬送されて行った。不安そうに見つめるアーティスト達、彼女の笑顔がそれを僅かに癒す。
翌日、ホワイトボードの長期アウトの欄に彼女の名前が記載されていた。結果の詳細は伝えられなかったが、数ヶ月単位を要する大怪我だったのは想像できる。手術を挟んでしまうと、さらに長引く。
慌ただしい帰郷から戻ってきたアーティスト。
彼女もまた大切な仲間。しかし、その裏で激痛や不安と戦う別の仲間がいるのも紛れもない事実なのだ。